被害に気づいて検索すると、「回収」という言葉がたくさん並びます。回収率90%、成功報酬、着手金無料。どれも心強く見えますが、その「回収」で具体的に誰が何をするのかは、ほとんど書かれていません。
騙されたばかりで、どの会社も信じられない。そう感じているなら、その警戒は正しいと思います。この記事では、まず今日できることの順番を示します。そのうえで「回収」という言葉を追跡・凍結・返還の3つに分け、どこまでが技術でできて、どこからが相手次第なのかを説明します。
後半では、調査会社の広告と契約書の読み方、見積もりで聞く質問、契約してしまった後にできることをまとめました。書いてある制度は、公的機関のページでご自身でも確かめられるようにしています。契約するかどうかは、読み終えてから決めて大丈夫です。
調査会社を探す前に、今日できること
調査会社の比較から始めると、いちばん効く手続きが後回しになりがちです。次の順で進めてください。どれも費用はかかりません。
- これ以上払わない。「出金には税金が必要」「保証金で口座が戻る」と言われていても、支払いを止めます
- 銀行振込があれば、振込先の金融機関と警察へ。口座の凍結は、早いほど結果が変わります
- 送金元の取引所に報告する。出金日時、通貨と数量、送金先アドレス、取引ID(TxID)を伝えます
- 記録を残す。やりとり、送金履歴、相手のサイトの画面。消される前に保存します
- そのあとで、有料の調査や弁護士への依頼が必要かを考える
それぞれの手順は詐欺にあったら最初にやること(72時間)と仮想通貨詐欺の返金は可能かに詳しく書いています。この記事は5番目、「有料の調査をどう判断するか」に絞ります。
「回収」は3つの別々の作業です
広告の「回収」は、たいてい次の3つをまとめて指しています。分けて見ると、それぞれ担い手も根拠も違うことが分かります。
作業 | 中身 | 誰ができるか | 何を根拠にするか |
|---|---|---|---|
追跡 | 送ったお金がどこへ移動したかを、ブロックチェーン上でたどる | 誰でもできる。専門の事業者は道具と経験を使って速く正確にまとめる | 公開されている取引記録 |
凍結 | たどり着いた先の事業者に、その資金を止めてもらう | 止めるのは取引所などの事業者自身。依頼は捜査機関・弁護士・利用者からの報告など | 捜査機関からの照会や要請、事業者の利用規約、各国の法令 |
返還 | 止まった資金を、被害者の手元に戻す | 金融機関・裁判所など、法律にもとづく手続きの担い手 | 振り込め詐欺救済法、民事・刑事の手続き |
大事なのは次の点です。民間の事業者が自分の力だけでできるのは、原則として追跡までです。凍結と返還は、相手の事業者や捜査機関、司法の判断がなければ進みません。
「回収します」の主語を確かめる
広告に「凍結を要請します」「交渉して取り戻します」と書かれていたら、それを誰がするのかを確かめてください。
弁護士法72条には、次の定めがあります。弁護士でない者は、報酬を得る目的で、法律事件の代理や和解などを業として扱えません。弁護士を紹介して報酬を得ること(周旋)も同じです。調査会社が「交渉」をうたう場合は、実際に誰が行うのかを聞き、弁護士なら氏名と所属弁護士会を確認してください。
弁護士の氏名と所属は、日本弁護士連合会の弁護士検索でご自身で調べられます。個別の契約が法律に触れるかどうかの判断は、弁護士や法テラスに相談してください。
追跡で分かること・分からないこと
なぜ追跡できるのか
仮想通貨の送金は「トランザクション」として、ブロックチェーンに記録されます。1件ごとに取引ID(TxID)が付き、記録は基本的に書き換えも削除もできません。
そのため、送ったときのTxIDを起点にすれば、資金がどのアドレスへ、どの順で動いたかをさかのぼれます。記録は公開されているので、確認するだけなら誰でも無料でできます。
追跡で分かること
- 送金先のアドレスと、その後の移動経路
- いつ、いくら動いたか
- 複数のアドレスに分けて送られているか
- 取引所とみられる宛先へ入ったかどうか
- いま資金がどのあたりに留まっているか
追跡で分からないこと
- アドレスの持ち主の名前。チェーン上の情報だけでは、誰のアドレスかは分かりません
- 取引所に入ったあとの行き先。取引所の中で誰の口座に入ったかは、その取引所の内部記録にしかありません
- 「取引所とみられる」の確かさ。どの取引所のアドレスかは、多くの場合「推定」です。断定ではありません
つまり、追跡レポートが完成しても、そこに相手の名前は書かれません。書かれているのは「どこへ動いたか」までです。名前を知るには、取引所が捜査機関などの照会に応じる必要があります。
追跡が難しくなる動き
次のような動きがあると、流れが複雑になり、たどれる範囲が狭くなります。
- スワップ。別の通貨に交換されると、追う対象が変わります
- クロスチェーンブリッジ。別のブロックチェーンへ移されると、追跡の難易度は大きく上がります
- 分散送金。多数のアドレスに少しずつ分けて送られます
- ミキシングサービス。複数の人の資金を混ぜる仕組みを経由すると、その先を確実にたどることは難しくなります
資金は時間とともに分散されていくことが多く、日数が経つほど状況の把握は難しくなります。ただし、記録そのものは消えません。数か月経っていても、送金先アドレスとTxIDは残しておいてください。
追跡レポートの読み方
有料・無料を問わず、追跡の結果を受け取ったら、次の項目を確認してください。見た目の図の多さより、ここが書かれているかどうかが大事です。
確認する項目 | 読み方 |
|---|---|
起点のTxID | ご自身の送金記録と一致しているか。違う送金を追っていないか |
各段階の日時と金額 | 経路の矢印だけでなく、日時と金額が1件ずつ書かれているか |
「取引所」の表記 | 「〇〇取引所」と断定しているか、「とみられる」と推定にとどめているか。根拠が書かれているか |
追えなくなった地点 | どこで追跡が止まったか、その理由(ブリッジ、ミキサーなど)が書かれているか |
現在の残高 | 最終地点に、いまも資金が残っているか。調べた日付はいつか |
次の手続き | どの窓口に何を持っていけばよいかが書かれているか |
「追跡成功」と書かれていても、それは「経路が分かった」という意味です。凍結や返還が決まったという意味ではありません。レポートは、警察や取引所、弁護士に持っていく資料として使うものです。
凍結を頼めるのは誰か
資金が取引所に入ったと分かっても、止めてもらえるかは別の話です。
- 国内の登録業者の場合。捜査機関からの照会や要請に応じる仕組みがあります。登録業者かどうかは金融庁「暗号資産交換業者登録一覧」でご自身で確認できます
- 海外の事業者の場合。日本の民間事業者にも弁護士にも強制力はありません。応じるかどうかは相手次第です
- 個人のウォレットの場合。止めてもらう「事業者」がいないため、凍結という手段はとれません
- 止まるのは残高だけ。凍結が間に合っても、止まるのはその時点で残っている分です
調査会社が「凍結しました」と言う場合は、どの事業者が、どの手続きで止めたのかを書面で確かめてください。事業者からの通知や、捜査機関の受付番号などの裏付けがあるはずです。
返還までの距離
凍結された資金がご自身の手元に戻るまでには、さらに手続きが要ります。被害者が複数いれば、誰にいくら戻すかを決める必要があります。ここは司法や、法律にもとづく制度が判断する領域です。
日本の銀行口座に振り込んだ分には、振り込め詐欺救済法の制度があります。金融機関が口座を凍結し、残った資金を被害者に分配します。弁護士や調査会社に頼まなくても、ご自身で金融機関と警察に連絡して始められます。流れは金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」で確認できます。
この制度の対象は預金口座です。取引所やウォレットへ仮想通貨を直接送った分は対象になりません。「銀行に振り込んだ部分」と「仮想通貨で送った部分」は分けて整理してください。
調査会社の広告をどう読むか
広告やランキングの数字は、何を数えたものかが分かって初めて意味を持ちます。よく見る言葉ごとに、確かめたい点をまとめます。
「回収率〇%」
数字そのものより、何を分母にしているかを見てください。
- 相談件数のうちか、契約件数のうちか
- 「回収」に、追跡レポートの納品や「凍結の要請」を含めていないか
- いつからいつまでの期間か
- 誰が数えたか。会社自身の発表か、外部が確かめたものか
分母と「回収」の定義が示されていない割合は、比較にも判断にも使えません。
「成功報酬」
「成功」が何を指すかで、意味がまったく変わります。報告書の納品なのか、凍結なのか、ご自身の口座に実際にお金が戻ったことなのか。報酬の基準が「戻った額」なのか「請求した額」なのかも確かめてください。
「着手金無料」
着手金がなくても、調査費・レポート作成費・実費・延長費用が別にかかることがあります。それ自体が不当というわけではありません。問題は、内訳が契約前に示されないことです。
ランキング・比較サイト
「おすすめ調査会社ランキング」のようなページは、運営者がどこかを見てください。運営者情報がない、広告である旨の表示がない、どのページも同じ会社を1位にしている。そうしたページの順位は、判断の材料にしないほうが安全です。
契約書で必ず読む4か所
契約を検討するなら、次の4か所はご自身の目で読んでください。見つからない場合は、どこに書いてあるかを質問します。
読む場所 | 確かめること | 立ち止まりたい書き方 |
|---|---|---|
完了の条件 | 何をもって契約が果たされたとするか | 「報告書の納品をもって完了」。この場合、回収できなくても契約は履行されたことになる |
保証の有無 | 返金・回収の保証があるのか、ないのか | 広告では「実績」を強調し、契約書には保証がない。実績と保証は別のもの |
解約の条件 | いつから、いくらの解約料がかかるか | 契約直後から全額負担。解約の方法が書かれていない |
追加費用 | 着手金のほかに発生する費用と、その条件 | 「必要に応じて別途」だけで、上限も条件もない |
契約書が事前に出てこない、「契約後にお渡しします」と言われる。そのときは、いったん止めて構いません。契約書を事前に見せられない理由は、通常ありません。危険なサインの一覧は契約前に確認する5つの危険サインにもまとめています。
見積もりの段階で聞く質問
次の質問を、そのまま聞いてみてください。答えはできるだけ書面かメールで受け取ります。具体的に答えられるかどうかで、多くのことが分かります。
- 「回収」とは、追跡・凍結・返還のどれを指しますか
- 契約は、何をもって完了しますか
- 回収できなかった場合、合計でいくら払うことになりますか
- 追加で費用が発生するのは、どんな場合ですか。上限はありますか
- 凍結の要請や交渉は、誰が行いますか。弁護士なら氏名と所属は
- 「回収率」の分母は何で、どの期間の数字ですか
- 報告書には、何が書かれますか。見本を見せてもらえますか
- 解約はいつまで、いくらでできますか
- 担当者の氏名と、会社の所在地・連絡先を教えてください
「今日決めないと間に合わない」と急がされた場合は、その場で決めないでください。上の手続きを先に済ませていれば、調査会社の判断を数日遅らせても大きな差にはなりにくい部分です。
契約してしまった後にできること
契約したあとで不安になるのは、珍しいことではありません。恥ずかしく思う必要もありません。次の順で確認してください。
1. 追加の支払いを止める
「次の段階に進むには追加費用が必要」と言われても、いったん保留にします。払う前に、契約書のどこにその費用が書かれているかを確かめてください。
2. クーリング・オフの対象か確かめる
クーリング・オフは、すべての契約に使えるわけではありません。国民生活センターの案内では、次のように整理されています。
- 電話勧誘販売。事業者からの電話で勧誘されて申し込んだ場合です。法律で決められた書面を受け取った日から8日以内なら、撤回や解除ができます
- 通信販売。ネットの広告を見てご自身から申し込んだ場合は、通信販売にあたり、クーリング・オフ制度はありません
- 通知の方法。2022年6月から、書面のほか電子メールなどの電磁的記録でも通知できるようになっています
ご自身の契約がどれにあたるかは、勧誘のされ方で変わります。判断に迷うときは、消費者ホットライン188で確認してください。制度の一覧は国民生活センター「クーリング・オフ」、電話勧誘販売の説明は消費者庁「特定商取引法ガイド」で読めます。
3. 契約の取消しや条項の無効も相談できる
消費者契約法には、不当な勧誘による契約の取消しや、不当な契約条項の無効が定められています。ご自身の契約に当てはまるかどうかは個別の判断になります。188の消費生活センターか、弁護士・法テラスに相談してください。
4. 記録を残す
- 契約書、申込みの画面、利用規約
- 広告やランキングサイトの画面(URLと日付も)
- 担当者とのやりとりの全文、通話の日時
- 支払いの記録(振込明細、カード明細、TxID)
- 受け取った報告書などの納品物
最初の詐欺の記録とは分けて保存してください。送金先や日時が混ざると、どの窓口でも説明が難しくなります。残し方は残すべき証拠にまとめています。
5. 相談先
事業者とのトラブルとしては消費者ホットライン188が窓口です。詳しくは消費者ホットライン188をご覧ください。費用の返還を求める交渉などは、弁護士の領域です。法テラスには、収入などの条件を満たせば無料で法律相談を受けられる制度があります。弁護士への相談の準備は弁護士に相談する前にで整理しています。
被害のあとに近づいてくる相手
ここまでは、ご自身で探した調査会社の話でした。別に気をつけたいのが、被害を知らないはずの相手から届く「回収できます」という連絡です。SNSのメッセージ、ショートメール、電話などで届きます。
消費者庁も、投資の被害者に返金を持ちかけて新たにお金を求める「二次被害」に注意を呼びかけています。次の形がそろっていたら、いったん止めてください。
- 先にお金を求める。調査費、保証金、凍結解除費用、税金、手数料
- 仮想通貨を個人のウォレットへ送るよう求める。捜査機関や弁護士が関わる正式な手続きで、こうした送金は通常想定されません
- 期限を切って急がせる。「今日中でないと資金が消える」
- 公的機関や警察を思わせる名乗りをする。届いた番号には折り返さず、公式サイトから連絡先を調べ直します
言い回しごとの確かめ方は返金・回収をうたう連絡に注意(二次被害)に、注意が報告されているサイトは注意が報告されているサイト一覧にまとめています。
当相談所の簡易追跡調査で分かること・分からないこと
送ったお金がいまどこにあるのか分からない。その状態のまま高額な契約を迫られることが、二次被害につながっています。そこで当相談所は、2026年9月25日から「簡易追跡調査」を無料で行っています。期間限定のテスト運用です。
仮想通貨に詳しい有志のエンジニアが、ブロックチェーン上に公開されている記録をたどります。無料の対象は、送金記録または送り先の情報1件です。この記事でいえば、3つの作業のうち「追跡」だけを行います。
分かること | 分からないこと・お約束しないこと |
|---|---|
送金先のアドレスから、その後どこへ資金が動いたか | そのアドレスの持ち主が誰か |
関連しているとみられるアドレスの有無 | 凍結や返還の手続き、資金の回収や返金 |
取引所とみられる宛先への送金があったかどうか | 経路によっては追える範囲が限られる。その場合は正直にお伝えします |
現時点で、資金がどのあたりに留まっているか | 調査後に特定の調査会社や事務所を紹介・あっせんすること(行いません) |
当相談所は、結果を理由に有料の契約をおすすめすることはありません。資金がいまどこにあるかが分かれば、調査会社と契約するかどうかを、ご自身で判断しやすくなります。すでに見積もりを受け取っている場合は、その中身を一緒に読むこともできます。
警察や送金元の取引所への連絡は、当相談所の結果を待たずに進めてください。受付は簡易追跡調査の無料受付のページです。有志による運営のため、お受けできる件数には限りがあります。
よくある質問
仮想通貨の回収業者は信用できますか
会社ごとに違うため、一律には言えません。確かめたいのは、「回収」が追跡・凍結・返還のどれを指すか、完了の条件、回収できなかった場合の総額の3点です。具体的に答えられない場合は、契約を保留して構いません。
調査会社が怪しいかどうか、どう見分ければいいですか
契約書を事前に見せない、保証がないのに広告で「必ず」をうたう、追加費用の上限がない、急がせる。こうした点が重なったら立ち止まってください。被害を知らないはずなのに連絡してきた相手なら、なおさらです。
追跡だけでも依頼する意味はありますか
場合によってはあります。警察や取引所、弁護士に持っていく資料として使えることがあるからです。ただし追跡は回収ではありません。何に使う資料なのかを決めてから依頼してください。
仮想通貨の追跡は自分でもできますか
取引記録の確認は、公開されたツールで誰でもできます。TxIDが分かれば、その送金がどこへ動いたかは追えます。ただし経路が複雑な場合の読み解きや、手続きに使える形に整えるのは別の作業です。
追跡で相手の名前や住所は分かりますか
チェーン上の情報だけでは分かりません。分かるのは資金の動きまでです。持ち主を知るには、取引所が捜査機関などの照会に応じる必要があります。
調査会社と契約してしまいました。解約できますか
契約書の解約条件をまず確かめてください。電話で勧誘されて申し込んだ場合は、クーリング・オフの対象になることがあります。ネット広告から自分で申し込んだ場合は対象外です。どちらか迷うときは188に相談してください。
何か月も経っています。もう手遅れですか
凍結で止められる残高という意味では、時間が経つほど厳しくなります。ただし取引記録は消えないため、追跡そのものは後からでもできます。警察への相談にも期限はありません。
当相談所は回収してくれますか
回収や返金のお約束はしていません。当相談所が行うのは、無料の簡易追跡調査と、状況の整理です。どの窓口に何を持っていくかを一緒に決めます。法的な手続き(代理・交渉・訴訟)は弁護士の領域です。
最後に
「回収します」と言われたら、それは追跡ですか、凍結ですか、返還ですかと一度聞いてみてください。この問いに具体的に答えられるかどうかで、多くのことが見えてきます。
契約書を前にして決められないときは、決められないままで大丈夫です。当相談所には、仮想通貨に詳しいエンジニアがいます。何から話せばいいか分からない状態で来ていただいて構いません。匿名で、費用もかかりません。
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